■著者
福多久

■内容紹介
鴎外描く安井夫人佐代はひたむきに夫の息軒を愛して居り、夫を敬し仕える事だけが生き甲斐だった。その息軒は「攘夷封港論をした」り、「藩政が気に入らぬので辞職した」りしたが佐代自身が「辺務」即ち国家国防のあるべき姿などを決して談じる事はなかった。それは佐代が世情に関心を持たぬ「愚か」であった故なのか。抑、「世情に明るい事」が「賢者」の証なのか。同じように漱石は「坊っちゃん」を書いて、その中で「近代思想」とは無縁の「封建時代の主従」のような関係を主人公と彼に対して無私滅私の忠義を尽くす「清」に据えた。カズオ・イシグロの名作「日の名残り」のダーリントン卿に対する執事スティーブンスの忠誠心を対比しつつ近代思想が齎らした「賢愚」の意味を探る。