■アーティスト
大滝寛/名越志保/八十川真由野(朗読)
■内容紹介
正岡子規、北原白秋、石川啄木、若山牧水ら日本の歌人たちの、知っていると一目おかれそうな短歌を150首収録。大滝寛、名越志保、八十川真由野の朗読により、日本語の美しさを再確認できる。
■曲名
(1)緋縅の鎧をつけて太刀はきてみばやとぞ思ふ山桜花~父君よ今朝はいかにと手をつきて問ふ子を見れば死なれざりけり~霜やけのちひさき手して蜜柑むくわが子しのばゆ風のさむきに(落合直文)
(2)牛飼が歌よむ時に世のなかの新しき歌大いにおこる~牀のうへ水こえたれば夜もすがら屋根の裏べにこほろぎの鳴く~暫くを三間うち抜きて夜ごと夜ごと児等が遊ぶに家湧きかへる(伊藤左千夫)
(3)天地の四方の寄合を垣にせる九十九里の浜に玉拾ひ居り~さびしさの極みに堪へて天地に寄する命をつくづくと思ふ~おり立ちて今朝の寒さを驚きぬ露しとしとと柿の落葉深く(伊藤左千夫)
(4)高山も低山もなき地の果ては見る目の前に天し垂れたり~今朝のあさの露ひやびやと秋草や総べて幽けき寂滅の光~おくつきの幼なみ魂を慰めんよすがと植うるけいとぎの花(伊藤左千夫)
(5)古への聖々のことはあれど死といふことは思い堪えずも~禍の池はうづめて無しと云えど浮藻みだれ目を去らずあり~汝をなげくもの外になしいきの限り汝を恋ひまもる此の父と母と(伊藤左千夫)
(6)闇ながら夜はふけにつつ水の上にたすけ呼ぶこゑ牛叫ぶこゑ~霜月の冬とふ此のごろ只曇り今日もくもれり思ふこと多し(伊藤左千夫)
(7)くれなゐのニ尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる~瓶にさす藤の花ぶさみじかければたゝみの上にとゞかざりけり~いちはつの花咲きいでゝ我目には今年ばかりの春行かんとす(正岡子規)
(8)夕顔の棚つくらんと思へども秋待ちがてぬ我いのちかも~寝しづまる里のともしび皆消えて天の川白し竹薮のうへに~真砂なす数なき星の其中に吾に向ひて光る星あり(正岡子規)
(9)佐保神の別れかなしも来ん春にふたたび逢はんわれならなくに~柿の実のあまきもありぬ柿の実のしぶきもありぬしぶきぞうまき~木のもとに臥せる仏をうちかこみ象蛇どもの泣き居るところ(正岡子規)
(10)松の葉の葉毎に結ぶ白露の置きてはこぼれこぼれては置く~若松の芽だちの緑長き日を夕かたまけて熱いでにけり~赤羽根のつつみに生ふるつくづくしのびにけらしも摘む人なしに(正岡子規)
(11)幼きは幼きどちのものがたり葡萄のかげに月かたぶきぬ~ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲(佐佐木信綱)
(12)野に生ふる草にも物を言はせばや涙もあらむ歌もあるらむ~秋かぜに驢馬なく声もさびしきを夕は雨となりにけるかな~あめつちに一人の才とおもひしは浅かりけるよ君に逢はぬ時(与謝野鉄幹)
(13)みづからの静かなる死を夢に見て覚めて思ひぬ然かぞ死なまし~京の紅は君にふさはず我が噛みし小指の血をばいざ口にせよ~われ男の子意気の子名の子つるぎの子詩の子恋の子あゝもだえの子(与謝野鉄幹)
(14)韓山に秋かぜ立つや太刀なでてわれ思ふこと無きにしもあらず~韓にしていかでか死なむわれ死なばをのこの歌ぞまた廃れなむ(与謝野鉄幹)
(15)白き花摘みつつゆけば夕ぐれのこの湖ぞひに母ますらむか~あけがたのそぞろありきにうぐひすのはつ音ききたり藪かげの道(金子薫園)
(16)夕焼空焦げきはまれる下にして氷らんとする湖の静けさ~信濃路はいつ春にならん夕づく日入りてしまらく黄なる空のいろ~みづうみの氷は解けてなほ寒し三日月の影波にうつろふ(島木赤彦)
(17)雪降れば山よりくだる小鳥おほし障子のそとに日ねもす聞ゆ~高槻のこずゑにありて頬白のさへづる春となりにけるかも(島木赤彦)
(18)二つゐて郭公どりの啼く聞けば谺のごとしかはるがはるに~隣室に書よむ子らの声きけば心に沁みて生きたかりけり(島木赤彦)
(19)つばくらめ飛ぶかと見れば消え去りて空あをあをとはるかなるかな~鉦鳴らし信濃の国を行き行かばありしながらの母見るらむか~いささかの残る学徒と老いし師と書に眼を凝らし戦に触れず(窪田空穂)
(20)桜花ひとときに散るありさまを見てゐるごときおもひといはむ~湧きいづる泉の水の盛りあがりくづるとすれやなほ盛りあがる(窪田空穂)
(21)その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな~清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき~やは肌のあつき血潮にふれも見でさびしからずや道を説く君(与謝野晶子)
(22)海恋し潮の遠鳴りかぞへては少女となりし父母の家~金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に~夏のかぜ山よりきたり三百の牧の若馬耳ふかれけり(与謝野晶子)
(23)はてもなく菜の花つづく宵月夜母がうまれし国美しき~夜の帳にささめき尽きし星の今を下界の人の鬢のほつれよ~人の世に君帰らずば堪へがたしかかる日すでに三十五日(与謝野晶子)
(24)春みじかし何に不滅の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ~髪五尺ときなば水にやはらかき少女ごころを秘めて放たじ(与謝野晶子)
(25)ゆあみして泉を出でしやははだにふるるはつらき人の世のきぬ~うすものの二尺のたもとすべりおちて蛍ながるる夜風の青き(与謝野晶子)
(26)馬追虫の髭のそよろに来る秋はまなこを閉ぢて想ひ見るべし~垂乳根の母が釣りたる青蚊帳をすがしといねつたるみたれども~鬼灯を口にふくみて鳴らすごと蛙はなくも夏の浅夜を(長塚節)
(27)此のごろは浅蜊浅蜊と呼ぶ声もすずしく朝の嗽ひせりけり~白埴の瓶こそよけれ霧ながら朝はつめたき水くみにけり~白銀の鍼打つごとききりぎりす幾夜はへなば涼しかるらむ(長塚節)
(28)歌人の竹の里人おとなへばやまひの床に絵をかきてあり~おしなべて木草に露を置かむとぞ夜空は近く相迫り見ゆ~ゆくりなく拗切りてみつる蚕豆の青臭くして懐かしきかも(長塚節)
(29)日に干せば日向臭しと母のいひし衾はうれし軟らかにして~春雨にぬれてとどけば見すまじき手紙の糊もはげて居にけり~小夜ふけてあいろもわかず悶ゆれば明日は疲れてまた眠るらむ(長塚節)
(30)おほてらのまろきはしらのつきかげをつちにふみつつものをこそおもへ~じやうるりのなをなつかしみみゆきふるはるのやまべをひとりゆくなり(会津八一)
(31)はつなつのかぜとなりぬとみほとけはをゆびのうれにほのしらすらし(会津八一)~立山が後立山に影うつす夕日の時の大きしづかさ(川田順)
(32)みちのくの母のいのちを一目見ん一目みんとぞただにいそげる~死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる~のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり(斎藤茂吉)
(33)わが母を焼かねばならぬ火を持てり天つ空には見るものもなし~あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり~最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも(斎藤茂吉)
(34)ひた走るわが道暗ししんしんと堪へかねたるわが道くらし~朝あけて船より鳴れる太笛のこだまはながし竝みよろふ山~かへりこし家にあかつきのちやぶ台に火焔の香する沢庵を食む(斎藤茂吉)
(35)向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ~木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな~ともしびをかかげてみもる人々の瞳はそそげわが死に顔に(前田夕暮)
(36)春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕~ヒヤシンス薄紫に咲きにけりはじめて心顫ひそめし日~病める児はハモニカを吹き夜に入りぬもろこし畑の黄なる月の出(北原白秋)
(37)君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ~照る月の冷さだかなるあかり戸に眼は凝らしつつ盲ひてゆくなり~石崖に子ども七人腰かけて河豚を釣り居り夕焼小焼(北原白秋)
(38)どくだみの花のにほひを思ふとき青みて迫る君がまなざし~草わかば色鉛筆の赤き粉のちるがいとしく寝て削るなり~寂しさに秋成が書読みさして庭に出でたり白菊の花(北原白秋)
(39)この山はたださうさうと音すなり松には松の風椎には椎の風~碓氷嶺の南おもてとなりにけりくだりつつ思ふ春のふかきを~廃れたる園に踏み入りたんぽぽの白きを踏めば春たけにける(北原白秋)
(40)脛立ててこほろぎあゆむ畳には砂糖のこなも灯に光り沁む~我が飛翔しきりにかなし女子の小峡の水浴夏は見にけり~冬雑木こずゑほそきに照りいでて鏡の如く月坐せりとふ(北原白秋)
(41)白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ~雲ふたつ合はむとしてはまた遠く分れて消えぬ春の青ぞら~けふもまたこころの鉦をうち鳴しうち鳴しつつあくがれて行く(若山牧水)
(42)白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ~ちちいぴいぴいとわれの真うへに来て啼ける落葉が枝の鳥よなほ啼け~うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かむとすなり山桜花(若山牧水)
(43)幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅ゆく~山を見よ山に日は照る海を見よ海に日は照るいざ唇を君~山かげの日ざしかげれば谷川のひびきも澄みて河鹿なくなり(若山牧水)
(44)ともすれば君口無しになりたまふ海な眺めそ海にとられむ~ふるさとの尾鈴の山のかなしさよ秋もかすみのたなびきて居り(若山牧水)
(45)牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ~曼珠沙華一むら燃えて秋陽つよしそこ過ぎてゐるしづかなる径~街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る(木下利玄)
(46)東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる~頬につたふなみだのごはず一握の砂を示しし人を忘れず~砂山の砂に腹這い初恋のいたみを遠くおもひ出づる日(石川啄木)
(47)いのちなき砂のかなしさよさらさらと握れば指のあひだより落つ~はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざりぢつと手を見る~友がみなわれよりえらく見ゆる日よ花を買ひ来て妻としたしむ(石川啄木)
(48)教室の窓より遁げてただ一人かの城址に寝に行きしかな~小来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心~新しき明日の来るを信ずといふ自分の言葉に嘘はなけれど(石川啄木)
(49)たはむれに母を背負ひてそのあまり軽きに泣きて三歩あゆまず~ふるさとの訛なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく~かにかくに渋民村は恋しかりおもひでの山おもひでの川(石川啄木)
(50)石をもて追はるるごとくふるさとを出でしかなしみ消ゆる時なし~こころよく我にはたらく仕事あれそれを仕遂げて死なむと思ふ~やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに(石川啄木)
(51)ふるさとの山に向ひて言ふことなしふるさとの山はありがたきかな~手套を脱ぐ手ふと休む何やらむこころかすめし思ひ出のあり~何となく今年はよい事あるごとし元日の朝晴れて風無し(石川啄木)
(52)秋近し!電燈の球のぬくもりのさはれば指の皮膚に親しき~晴れし空仰げばいつも口笛を吹きたくなりて吹きてあそびき~汽車の窓はるかに北にふるさとの山見え来れば襟を正すも(石川啄木)
(53)アカシヤの街にポプラに秋の風吹くがかなしと日記に残れり(石川啄木)~しらしらと氷かがやき千鳥なく釧路の海の冬の月かな(石川啄木)~秋さびしもののともしさひと本の野稗の垂穂瓶にさしたり(古泉千樫)
(54)篠懸樹かげを行く女が眼蓋に血しほいろさし夏さりにけり(中村憲吉)~岩かげの光る潮より風は吹き幽かに聞けば新妻のこゑ(中村憲吉)~夕べ食すほうれん草は茎立てり淋しさを遠くつげてやらまし(土屋文明)