わが国音楽評論界の、ことにレコード評論においてのルーツといえる人物である野村あらえびすが残した、貴重なエッセー集。ことに大正から昭和初年のコレクターとしての苦労と喜び、当時の知識階層との交流が格調の高い文章で綴られてゆく。
レコードを通してしかクラシック名曲に触れ得なかった時代の、音楽に対する激しい「渇望」は、現代の、夜ごとの演奏会や次々発売されるCD等に飽食気味の音楽ファンには想像もつかないものであろう。それだけに、その渇望が満たされたときの限りない「至福」の描写に接すると、われわれはむしろそのこ